行政書士法が変わりました——「デジタル社会への対応」が努力義務になった、ということ

2026年1月1日、行政書士法が改正され、施行されました。

今回の改正にはいくつかの柱がありますが、なかでも注目したいのが「デジタル社会への対応」が努力義務として明文化された点です。士業法のなかでこの種の規定が設けられたのは、行政書士法が初めてのことです。

条文に書かれていること

新設された法第1条の2(職責)には、次のように定められています。

行政書士は、その業務を行うに当たっては、デジタル社会の進展を踏まえ、情報通信技術の活用その他の取組を通じて、国民の利便の向上及び当該業務の改善進歩を図るよう努めなければならない。

ポイントは二つの目的が並んでいることです。「国民の利便の向上」と「業務の改善進歩」——つまり、依頼者にとっての利便性と、行政書士自身の業務の質向上、その両方を同時に求めています。

「努力義務」とはどういう意味か

努力義務には罰則がありません。「やらなかったから処罰される」という性質のものではない。それは確かです。

ただ、私はこの規定をそういう角度から読むべきではないと思っています。むしろこれは、立法者が社会に向けて発したメッセージではないでしょうか。「行政書士という専門職は、デジタル化が進む行政手続きの世界で、これからも市民の隣に立ち続ける」という宣言。行政書士の存在意義をデジタル時代に向けて再定義した条文、と読むのが自然だと感じます。

行政手続きのオンライン化は、今後さらに加速します。電子申請が「例外」から「原則」へ変わっていく流れのなかで、デジタルに不慣れな方を置き去りにしないためにも、行政書士が果たすべき役割は大きい。法はそのことを見据えて、この条文を置いたのだと思います。

具体的に何が求められているか——三つの層で考える

この努力義務の内容を整理すると、三つの層に分けて考えることができます。

第一層:道具を使いこなす

まず基礎として、電子申請やオンラインシステムを自分で操作できること。e-Gov、GビズID、マイナポータル、電子署名——これらはすでに実務の現場で不可欠なツールになりつつあります。補助金申請も許認可申請も、電子申請への移行が進んでいます。電子申請に対応できるかどうかが、依頼者にとっての「選びやすさ」に直結する時代になってきました。

第二層:依頼者に説明し、案内する

ツールを使えるだけでは十分ではありません。依頼者——多くは中小企業の経営者や、はじめて行政手続きに関わる個人の方です——に対して、デジタルな手続きの流れをわかりやすく説明し、不安を取り除きながら進める力が求められます。オンライン相談、LINE・メールでのやり取り、クラウド上での書類共有。こうした手段を使いこなしながら、依頼者に寄り添う。それが「利便の向上」の中身だと思います。

第三層:依頼者のデジタル化を一緒に考える

さらに一歩進むと、依頼者自身の業務デジタル化を伴走支援する、という領域が見えてきます。DX補助金の活用提案、業務フローの見直し、クラウドツールの導入検討——行政書士がこうした相談に関われるかどうかは、個々の力量と意識次第です。「書類を作って提出する」という従来の役割を超えて、経営者の身近な相談相手として機能する。法が想定している行政書士像の、もっとも先にある姿がここにあるように感じます。

ただ、ここで一つ立ち止まって考えたいことがあります。クラウド会計や電子契約といったSaaSサービスは、ある程度の規模の事業者であれば導入効果が見えやすく、社内でITを担当できる人材もいます。しかし、従業員数人の小規模事業者や個人事業主にとっては、そもそも何から手をつければいいか分からない、使いこなす時間も余裕もない、というのが実情ではないでしょうか。

デジタル化の恩恵が届きにくいのは、むしろそういった小さな事業者です。補助金申請や許認可手続きで日常的に関わる行政書士は、そうした事業者と接点を持つ数少ない専門家の一人です。「この申請、次回からオンラインでできますよ」「こういう仕組みを使うと、書類の管理が少し楽になります」——そんな一言を自然に添えられる存在であることが、第三層の具体的な姿なのかもしれません。大がかりなDX支援でなくていい。小さな事業者の隣で、一歩ずつ一緒に動く。そこにこそ、行政書士ならではの役割があると思っています。

デジタル庁が描く社会像と、行政書士の役割

デジタル庁は、行政手続きのデジタル完結を重点課題の一つに掲げています。そのキーワードが「誰一人取り残されない」という言葉です。

デジタル庁はデジタル推進委員という制度を通じて、デジタル機器やサービスに不慣れな方へのサポートを国民運動として広げようとしています。マイナポータルの使い方を教える、電子申請の手続きを一緒に確認する——そうした草の根の支援を担う人を増やすことが、政府の方針です。

ここに、行政書士が果たすべき役割が重なります。デジタル庁が目指す「誰一人取り残さない社会」と、改正行政書士法が求める「国民の利便の向上」は、同じ社会像を向いています。行政書士は許認可や補助金申請のプロとして、依頼者がデジタル手続きに戸惑うその場面に、もっとも近いところにいる専門家です。その立場を活かすことが、法改正の精神に応えることでもあると思います。

参考

【根拠条文】
・行政書士法第1条(使命)
・行政書士法第1条の2(職責)※2026年1月1日施行

【参考リンク】
e-Gov法令検索「行政書士法」
総務省「行政書士法の一部を改正する法律について」
デジタル庁「デジタル社会の実現に向けた重点計画」
デジタル庁「デジタル推進委員の取組」

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